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NHK BS-1 地球 街角アングル
「教室のない学校 30年の試み」
視聴メモ

サドベリーバレースクールを取材した番組がありましたので、その視聴メモです。

2005年1月15日 13:32 更新

基本情報

 サドベリーバレースクールは、アメリカ・ボストン郊外にある1968年設立のデモクラティックスクールです。大沼安史さん翻訳の「『超』学校」(1996.12)で日本に広く紹介されました。子どもが学び出すまで決して大人は手を出さず、また子どもに大人と同等の権利を与え運営に参加させるといった、独特の教育方針で子どもたちの才能を伸ばしている学校です。
  サドベリーバレー校の様子は、1997年7月のETV特集(*1)と、1998年1月頃FNNザ・ヒューマン内の特集(*2)で、放送されたことがあります。特に1997年のETV特集では、日本の教育を考える人々にかなりの衝撃を与えました。
  以前の放送からだいぶん時間が経っていますが、世代も変わっているはずですし、2004年現在のサドベリーバレー校の様子は、一体どんな感じなのでしょうか。

 

番組全体の印象

 まず最初に、今回の番組は、1997年ETV特集で放送された番組とは全く雰囲気が違うことを述べておきます。サドベリーバレー校のことを知らない人や、こんな学びをさせたい子どもたちにここの様子を紹介するならば、こちらのほうがいいかもしれません。ナビゲーター役がヒロコ・グレース(番組レギュラー)であることも、その一因でしょう。彼女の押さえたナレーションや、番組内での子どもやグリーンバーグ氏へのインタビューは、この場所の特異性を強調するわけでもなく、とても自然な言葉に感じられるからです。またBGMもいいです。番組全体の構成も、世界各地の普通に生きる人々の生活を数多く取材してきた番組らしく、とても感じよくまとまっています。これは教育に特化したドキュメンタリーではありません。しかし中味のある分かりやすいサドベリーバレー校の日常を紹介した番組になっています。この回以外の「地球 街角アングル」という番組自体も、世界の街角に暮らす人々を描くとてもよい番組ですので、見たことがない人は一度どうぞ。

 

 

視聴メモ

# 視聴するときにとったメモです。だいたいの流れが分かると思います。
# もう一度見直して修正しました。
# 地の文はナレーション、〈...〉は画面解説、「...」は誰かの発言、断らない限りグリーンバーグさん
# 一言一句正確には写していません。あくまでも概要です。

〈ヒロコ・グレースのナレーション〉

アメリカ東海岸にあるボストンは、近くにハーバード大学、マサチューセッツ工科大学などの大学が立ち並ぶ学園都市。
そのボストン市内から郊外へ車で40分の所に、サドベリーバレー校がある。この学校には、4歳から19歳までの150名の子どもたちが通っている。

このサドベリーバレー校には、普通の学校にあるべきものがほとんどない。学年割り、クラス分け、授業、テスト。ここは子どもたちの興味の赴くままに、自分のペースで学ぶ場所。創立から36年続くここの教育システムは、着実に成果を上げてきた。

〈カードゲーム、漫画、編み物、ゲームボーイ、ボール遊びをする子どもたち。カメラで何かを撮影している様子。昼寝をしてじゃれ合っている様子。〉

〈以後、いたるところに子どもたちの活き活きとした様子が映像として入れられている。庭を走り回っている様子、図書室の様子、X-BOXで遊んでいる様子、絵を描いている様子、料理をしている様子などなど〉

サドベリバレー校は朝8時に始まる。しかし登校時間は決まっていない。1日5時間居ることというルールを守れば、生徒と親の都合で、いつ来てもいつ帰ってもいい。
サドベリーバレー校の校舎は昔大富豪の邸宅だった建物を改装したもの。
子どもたちは、朝登校すると出席簿に登校した印を付ける。毎朝の日課はこれだけ。〈壁に生徒の名前の書いた表があり、そこに各曜日毎にINとOUTの欄がある。〉
人に迷惑さえかけなければ、何をするのも自由。遊びの中から、子どもたちは、自然に社会性を身につけていく。

〈ヒロコ・グレース登場〉
16歳の女の子に中の様子を案内してもらう。彼女は4歳からここにいる。
女の子「スタッフに頼めばいつでも本を読んでもらえる。」
〈本を読むスタッフの周りに低年齢の子どもたちが集まっている。〉

〈液晶ディスプレイのパソコンが数台並ぶ〉
コンピュータルームも完備、インターネットも使い放題。

ここのよいところを子どもたちに聞いてみると、
・「自由(Freedom)なところがいい。」
・「いちいち指示されないところがいい。」
・「クリエイティブなことに時間が使えるのが楽しい。」

ここには教師がいない。いるのは11人の学校スタッフ。スタッフの役割は主に子どもたちが安全に過ごせるように見守ること。

別の16歳の女の子。彼女は毎日本を読んでいる。今読んでいるのは村上春樹。
〈本のタイトルはWind-up Bird Chronicle ねじ巻き鳥クロニクル 〉
個性的な登場人物など、彼を賞賛する。彼女の文章を書く勉強がしたいという要求により、週に一度の授業が開かれている。ここでは、生徒が勉強をしたいと言い出さない限り、このような授業は成立しない。
〈彼女が作った物語をみんなの前で朗読する様子〉

先生役はスタッフだけではない。ここに来て3年目の11歳の女の子が、13歳の女の子に頼んで分数を教えてもらっている。公立校のときは大人の先生だったのでとても緊張した。彼女に教えてもらうと勉強が楽しい。

こうしてここの子どもたちはスタッフに授業を開くことを要求したり、子ども同士で学び合って、読み書きや算数を身につけていく。
〈グリーンバーグ氏登場〉
この学校を創立したメンバーの一人。
「私たちがすすんで教えるということはしません。好奇心を妨げないようにあえてそうしている。」

グリーンバーグさんはかつて大学で物理学を教えていた。しかし既存の教育システムに大きな疑問を覚えていた。
興味を持って始めたことには夢中になる子どもたちが、押しつけられた勉強には拒否反応を示してしまう。それならば、勉強に興味を持つまで教えるのをやめてしまおう。ダニエルさんはそう考えた。
〈グリーンバーグさんに物理のノートを見せて、質問をしている若者の映像〉

「教育しなければ、人は学ばない。それが一般的な考え方です。しかし現実は全く逆です。学ぼうという気持ちがあるから、教えてもらいたいと思う。本当に必要なことは、自分から学び取っていくものです。」
〈カードゲームをしている子どもたちの様子〉
「子どもたちには食欲と同じように知識欲が備わっているのです。必要に迫られれば、読めるようになるのです。」

〈創立当初の子どもたちの楽しそうな白黒の映像〉
設立当初の1960年代は、学園運動やヒッピームーブメントがさかんだった時代。そんな頃サドベリーバレーの新しい教育の中で、子どもたちが驚くべき集中力を見せて、自分の能力を開発していった。

「この学校の基本方針は子どもたちをひとりの人間として扱うことです。大人に接するのと同じように生徒にも向き合っています。」

ダニエルさんは、子どもたちに自由を持たせると共に責任を持たせました。年齢にかかわらず、生徒もスタッフも一票ずつ持っている。全体集会は週に一度開かれる。校則など学校の運営に関わる全てがここで決められている。参加は自由だが、自分の意見を学校の運営に反映させたいと大勢の子どもたちが集まる。

学校内に酒を持ち込んで停学になった子どもの復学について話し合い。このとき、本人が出てきて、みんなの前で戻りたい理由を発言している。とても冷静に意見交換がすすむ。

「子どもにはしっかりとした判断力が備わっています。人生経験が少ないから判断力がないということはない。人生経験を積まなければ、判断ができないのであれば、世の中は全て老人が支配するという理屈になる。人間は年齢にかかわらず、同等に扱われるべきです。これは他人を評価する上でとても重要なことです。」

みんなで決めたルールの下で誰もが平等に権利を主張できるここは、民主主義の実験場。
ルールを破ると、生徒とスタッフが運営する裁判所に送られる。毎朝11時から1時間開かれる。9歳の子からいじめられたという訴え。訴えられた本人が呼び出される。判決の結果はすぐに公表される。画面は掲示板に張り出す様子。罰はゴミ当番から、退学まで。このようにして子どもたちは自由と責任を学ぶ。

最近、36年間の卒業生たちの進路について調査結果をまとめた(*3)。卒業生の答えたアンケートでは、その80パーセントが希望する大学に進んだ。大学卒業後は、研究者やアーティストなど専門職に就く人が多く、企業に就職する人の割合が低い。自分の人生を肯定的にとらえる人も高い割合を示している。
しかし、この学校のシステムになじめない子がいるのも、これまでに大勢いた。全150人中毎年数人が公立の学校に戻っていく。

7歳の子どもをサドベリーバレーに通わせている女性、彼女自身もここの卒業生。化粧品会社で販売責任者になっている。
卒業生「大学で数学を一から勉強した。ここでは何もしていなかったから。サドベリーバレー校の最大の教えは、勉強を始めたいと思ったら、どう取り組むかを考えること。自分が何のために数学が必要なのかをよく考えた。」

卒業生「孫が満足に読めないことをとても心配してる。でも読みたくなれば読めるようになるもの。そのときはもっと楽に早く、勉強に疑問を抱くこともなく。」

今年卒業の、6歳のときから12年間ここにいる若者。長く続けている一輪車は全国大会に出場するほど。
若者「好奇心はどんどん変化した。蛙取り、飛行機、第二次対戦の戦闘機、歴史が好きになり、本をたくさん読んだ。」
彼は大学入学の共通テストで優秀な成績を修めた。将来は科学者になるのが夢。

「卒業生は大学入学審査で高い評価を持っています。彼らは確固たる理由をもって、進学を希望しているし、好きなことを積極的にやってきたからです。彼らには仕事に情熱を注ぐ、人生を歩んでもらいたい。そして社会や課程で愛のある関係を築いてほしい。それこそがこの学校の目的なのです。」

このシステムをモデルにした学校は全米で23校ある。
学ぶことと、生きることの意味を問い続けるサドベリーバレースクールの試みが続いています。

 

感想など

 1997年の番組と変わりなくサドベリーバレー校は続いていました。今まで見たものよりもグリーンバーグさんの表情が前面に出てきて(番組紹介ページ)、グリーンバーグさんの自信に満ちた言葉と、この表情がサドベリーバレー校の成功の全てを物語っているようでした。

 学年もクラスも、授業もテストもないような学校が実際にあるなんて、初めてこの学校のことを知った人は、そういうことがあり得ることがどうしても信じることができないでしょう。しかし実際にこの学校は存在し、確実に多くの子どもたちの才能を伸ばしながら、36年もの間、続いているのです。そしてこのような学びの場はこの学校だけではなく、このシステムを取り入れたところが、アメリカ、そして世界中に存在しています。日本も決して例外ではありません。(*4)

 大人が学ばせようとしなければ、子どもは遊んでばかりいるに違いないと思う人もいるでしょう。しかし実際そうであっても、グリーンバーグさんは遊び続けることも是であるとしています。この学校では好奇心の対象が遊びであっても何の問題もありません。遊びを含めて子ども自身の好奇心を追求していくことこそが、この学校の学びです。どの子にも好きなことをしているときに見せる真剣なまなざしがあります。その集中力が、この学校の子どもたち自身の将来を作り上げています。

 でも、ここと同じシステムを用意したからといって、同じようになっていくとは限らないでしょう。待つことをいとわないスタッフ。子どもたち本人の自覚と、保護者の協力。グリーンバーグさん並みに子どもたちの中にある学ぶ欲求への信頼がなくてはなりません。軌道に乗りさえすれば、うまくここのようにまわっていくのでしょう。スタッフよりも先輩たちの姿がなによりも子どもたちの手本になるのでしょう。しかし軌道に乗せるまでは、特に今の日本人には、子どもも大人も大変だと思います。

 欲を言うと、スタッフを次年度も雇うかどうかも子どもたちのアンケートによって決まるというところや、卒業のシステムと、授業についての講師と子どもたちとの契約をもう少し詳しくしてほしかったです。全体集会や司法委員会と並んで、この授業の契約も民主主義のシステムの学びになっていると思うからです。また卒業のシステムに関しては、子どもたちを評価しない学校で、どのように子どもたちの卒業資格を認定するのかという大切な場面ですから、サドベリーバレー校のシステムを語るときにはとても重要だと思います。でも実際に卒業発表の場面がなければ撮れませんし、これは仕方がないことです。この番組の目的は、サドベリーバレー校のシステムすべてを伝えることではなく、日常の様子を伝えることですから。ここまで現在の様子を生き生きと伝えてもらえれば十分です。残りの部分は、1997年の番組や本で補完しましょう。  

 

気づいたこと:

グリーンバーグさんがYu-Gi-Oh!という言葉を知っているのには驚きました。それを言ったあとに、Magicとマジック:ザ・ギャザリングのことを言っているのですが、字幕では手品と訳されてしまっています。遊戯王カードやマジックのカードにはそのカードの能力などの文章が書かれていて、それが読めなければゲームで遊ぶことができません。だから必要に迫られて子どもたちは文章を読もうと勉強します。学ぼうとするキッカケは遊びの中にも無数に存在しますよ。そういうことをグリーンバークさんは、今子どもたちが楽しんでいるカードゲームを引き合いに出して言っているわけです。字幕ではゲームや手品となっているので、手品は字が読めなくても何とかなるんじゃないかとグリーンバーグさんにつっこみを入れた人もいるかもしれませんね。若い人?は画面を見てすぐにこの誤訳には気づくでしょう。分からなかった人は今現在の子どもたちの好奇心にもとても理解のあるグリーンバーグさんを見習いましょう。

 それから、自分自身もここの卒業生で、自分の子どもも迷わずここに通わせている女性が、祖父母が孫が満足に読めないことを心配していると(字幕で)言っている場面があります。でもよく考えるとなんかおかしく感じませんか。あなたをここに通わせておきながら、孫が通うのを反対するものだろうかと。でもよく言葉を聞いてみるとちゃんと父方(dad's side?)祖父母と言っているようです。

 

補足


(1) 1997年7月1日にNHK教育で放送された番組:
 ETV特集「自由の中の全人教育〜サドベリーバレー校の実践〜」。サドベリーバレーの取材ビデオ(正味30分くらい)と、大沼安史氏、寺脇研氏、司会町永アナウンサーによるスタジオでの解説からなる番組。
  講師を呼んで ツリーハウスを子どもたちが作っている様子、そのツリーハウスのために子どもたちが他の子どもたちにアイスクリームを売って資金集めをしている様子。ツリーハウスに関わっている17歳の女の子の言葉はとてもいい。卒業発表の様子。先生を次年度も雇うかどうかの子どもたちのアンケートの様子。司法委員会ではお金が盗まれた事件についての当事者を交えた話し合いの様子。4歳の子どもが自分自身で自分の学びに責任を持たねばならない姿など。いくつもの印象的な場面があります。


(2) 1998年1月13日放送のフジテレビによる取材「生徒がつくるアメリカ"超"学校」:
 こちらの方は内容も7分ほどの短いものなので、あまり知られていないと思います。アメリカ駐在中の黒岩祐治さんのリポートでした。いきなり、テレビゲームを1日5時間やり続ける子どもたちの様子から入るという、別の意味で衝撃的な内容でした。ゲームをやり続けていた子が突然掃除や学びに目覚めた話、ゲームを同じように続けていたことのある卒業生がいまや立派に大学を出て不動産を調査する仕事をしている話などETV特集とは違う切り口からのサドベリーバレー校報告でした。司法委員会や、家族へのインタビュー、一人の少女の要求で数学の授業が始まる様子、そしてグリーンバーグさんへのインタビューなど、短い時間の割には基本的な部分はちゃんと押さえているリポートでした。型破りな教育という部分をとても強調していました。(黒岩さんの旧サイト内に関連記事がありました。)
 他の日本の番組でも取り上げられたことがあるかも知れませんが、確認してません。


(3) 卒業生の進路をまとめた本:

番組の中で紹介された卒業生の進路についてまとめた本はこれです。サドベリーバレー校サイト内の下記のリンクには、本の内容の一部があります。
「The Pursuit of Happiness: The Lives of Sudbury Valley Alumni」
http://www.sudval.org/05_onli_16.html


(4) 日本のデモクラティックスクール:
  日本にもサドベリーバレースクールと同じ理念のデモクラティックスクールが存在します。デモクラティックスクールまっくろくろすけさん、フリースペース宙(そら)さんなどです。特にフリースペース宙さんのところには子どもたちにも分かりやすいデモクラティックスクールの解説ページがあります。

 

番組データ

番組名:
NHK BS-1 地球 街角アングル「教室のない学校 30年の試み
 地球街角アングルは週に三回、世界の人々が、この変革の時代に何を悩み何を夢見て生きているかを取材する20分間の番組。

番組内のこの回の放送内容ページ:
 http://www.nhk.or.jp/globe-walkers/blist/041121con.html

放送時間:
 初回放送 NHK BS-1 2004/11/21(日) 21:40-22:00
 再放送 NHK BS-1 2004/11/25(木) 12:40-13:00?
 再放送 NHK BS-1 2004/12/14(火) 18:30-18:50
 NHKハイビジョンでの放送 2004/12/1(水) 14:10-14:30
 再放送 NHK BS-1 2005/1/1(土) 07:30-07:50
 再放送 NHK BS-1 2005/1/12(水) 18:30-18:50
  (地球街角アングルはもともと再放送枠のある番組ですが、年末年始のために回数が多いようです。)

撮影期間:
 サドベリーバレー校のサイトによると、2004/10/19〜10/22の間、撮影がされた模様。

番組名の変更:
 2004.10.29から始まった「地球 街角アングル」。それ以前の番組「地球ウォーカー」は1年半ほど続いていたようです。サドベリーバレー校のニュースページによると、「地球ウォーカー」として取材に入っていることがわかります。そこには、この番組名"Chikyu Walker"とその簡単な英語での意味の説明"Global Wanderer" が書いてありました。番組名の変更に伴い、テーマ曲以外どの程度の内容の変化があったかは分かりません。