小学1年生から不登校

「小学1年生から不登校」

 今の子どもたちは、さらにインターネットに常時接続が当たり前になり、スマホ、タブレットの登場でいつでもどこでもネット接続し好きなことができるようになりました。動画、ゲーム、音楽、SNS(コミュニケーション)、買い物など楽しげなものは何でも揃っているのがネットの世界です。
 今回、紹介するのは、そんなデジタルネイティブ世代で独特の感性をもっている若者です。

 Iさんと出会ったのは小学1年生の時でした。
 フリースクール地球子屋で出会いましたが最初の第一声は「この人、誰?」などあからさまに警戒し他の大人の後ろに隠れるようなシャイな子どもでした。
 そもそも不登校になったきっかけは小学5年生の兄が不登校だったことが大きく影響しています。幼稚園から帰ってくると小学生で学校にいるはずのお兄さんが家にいることが多かったのです。
 なんとなくお兄さんの言葉から学校は嫌なところ、怖いところという先入観ができあがっていったようでした。

 もちろん小学校の入学式から1週間ほどは学校に登校しましたが、そのころお兄さんはフリースクール地球子屋に通っており、お兄さんからIさんも学校かフリースクール地球子屋か選べばいいよと言われていたので、両方を体験してみてフリースクール地球子屋に通うことを決めてました。

 フリースクール地球子屋に通いだすとIさんにはちょっとしたこだわりがいろいろとあることがわかりました。自分の事になると指図されるのは嫌がり、何でも自分で調べたり決めたりしないと納得しない傾向もあります。目鼻立ちが整っており、ご家族全体からカワイイ、カワイイと愛情を注がれてきたこともあって自分がしなくても周りのオトナがしてくれるような環境で育ってきたのです。だから何でも自分の思い通りにならないとすぐに拗ねてしまう面があります。

 他人が使ったコップやスプーンなど念入りに自分で洗わないと気がすまない性格もあって、なんか他の人を汚いもののように扱うのです。汚いことが嫌いでやや潔癖症なところもありました。自分もですが他人の汗や臭いに敏感、土をいじるなどもっての外です。
 今でこそ発達障がいなど知られるようになりましたが、その当時はそういった言葉もなくなかなかIさんの特性を周りの子どもが理解することができませんでした。

 人間関係にも課題はありました。小学校4年生くらいからとにかく格闘ゲームやモンスターを戦って倒すようなゲームを好んでいました。敵を倒すとスカッとする、とにかく負けたくないという気持ちだったようです。ゲームの世界では活躍できる自分こそ本当の自分であると本気で思っていますし、自由になんでもできるという万能感がありました。だから勝負や競争で負けた人を平気でバカにできるのです。

 勝負にこだわる点は現実の生活でも現れました。誰かと一緒に階段を上っていると先に上りきろうと走りだし、みんなで卓球をしようとしても、すみっこで卓球の上達法の動画を見ていたり、一人で練習してみたりといった感じです。
 そして勝負に勝つと得意げになって「ダサい」「ヘボい」など上から目線でバカにするので嫌な気持ちになる子どももいました。そもそも階段上がりなど競争していないので、そういうことで人格を否定する発言は暴言だと繰り返し教えていきました。
 そんな態度なので同年代の友だちは寄り付かないことも多いのですが、少し年齢が下で離れていると、戦いごっこやレゴで怪獣をつくったりなど一緒に遊んであげる優しい一面ももっていました。

 ゲームやアニメや漫画からもIさんはたくさんのことを吸収していきます。思春期になってくればもちろん好きな異性のことも興味をもつようになります。Iさんにとっては、生身の人間と同じように二次元の世界にリアルさを感じているのです。外に出て汗をかいたり、簡単には何事もできない現実の世界で生きていることが嫌なのです。

 そんなIさんがいよいよ高校進学をどうするかという問題を考える段階にまで成長してきました。これまでは自分の興味関心のあることを掘り下げる中で学んでいくようなプロジェクト学習をフリースクール地球子屋では行ってきました。しかし高校選択は自分の興味関心とは別に将来のことを考えて選択する必要があります。
 そこでフリースクール地球子屋では、キャリア(将来の自分)を考える学習を取り入れています。自分の未来をどのように選択して作っていくのか、どのような考え方をすればよいのかはとても重要な内容になります。

 不登校の子どもたちにとって、過去のできごとにとらわれていることが少なくありません。そのような状態であれば自分の未来を考えることはなかなかできないものです。Iさんは最初からフリースクール地球子屋を自分で選び来ているので過去のできごとについては何かこだわることはありませんでした。
 フリースクール地球子屋では、今、ここで何をしたいかという気持ちを重視していますが、次の段階として目標に向かって活動を進めていくプロジェクト学習を取り入れていきます。プロジェクト学習を繰り返し進めていくことで今だけではなく未来に目を向けることの大切さを学んでいくのです。

 そのような段階を踏んでキャリア学習に取り組んだIさんは、高校は、県外の高校を希望しました。しかしご家庭の経済的な理由から高校までは県内という条件の中、自宅のある市町村ではなく1時間以上かかる離れた不登校の子どもにも理解のあるところを選択しました。その地域のご家庭に、地域外の子どもは下宿する形になります。

 このような選択をすることは珍しいことではありません。過去をリセットしたい、ダメな自分を知っている人がいない場所へ行きたいという欲求は不登校の子どもには少なからずあります。こういう感覚もゲームで育った世代独特の感覚かもしれません。無事合格したIさんは下宿生活とともに新たな高校生活を送りました。

 1年間頑張って下宿先から高校へ通う生活をしてきたIさんでしたが、潔癖症なところが災いしてストレスが多くなってきました。ある日、フリースクール地球子屋に来て、どうしても下宿生活で我慢ができないことを相談してくれました。Iさんの気持ちを受け止めつつ、どうすれば高校生活を続けることができるか話し合いました。
 最後は、下宿先から実家に戻る決断し、ご家族にもフリースクール地球子屋に来てもらい話をすることができました。
高校からかなり離れた実家から通うにはバスや電車に乗り継ぐ必要があり、そのために朝6時ごろ出発する必要があります。それでもなんとか残りの2年間を通い卒業することができました。

 高校卒業する前に今後のことを相談したいとフリースクール地球子屋でもう一度キャリア学習をすることにしました。12歳ごろからずっと変わらずアニメやゲームが大好きで没頭するIさんは、どうしても自分が生きるのはそんな業界だというこだわりがありました。
 だから高校卒業後は、東京にあるゲームが学べる専門学校へ進学することにしました。ご家族は、Iさんがやりたい夢を応援してくれました。ゲーム業界で自分は活躍したいという夢を強く持って上京したのです。

 専門学校への進学を決めましたが、東京の生活は6-7万程度の仕送りではどうしても苦しくて深夜バイトを始めます。10万くらいのバイト代が入ると生活費や交遊費に消えていき、お金がなくなるとまたバイトに精を出すというサイクルが出来上がっていきます。
 一人暮らしは食事を作るのが面倒になります。食事を確保するため最初のバイトとは別に飲食店のバイトも始め、だんだんと比重がバイト重視になっていきだし専門学校の勉強はやっと課題をこなすだけとなっていきます。

 なんとか卒業はできましたが、憧れていたゲーム業界での就職は難しいことがわかっていましたし、バイトでも東京で生活していけることが自信にもなっていました。卒業後3年間は2つのバイトを掛け持ちしながら専門学校で出会った友だちやバイト仲間と遊ぶ日々が続いていきました。Iさんにとっては専門学校の2年間、そしてその後の3年間は自分の力で自由に生活ができてよかったと心の底から思ったそうです。

 しかしだんだんと一緒に遊んでいた仲間も少しずつ就職していったり結婚していったりしていきました。生活が安定していくことを目にして自分の人生に向き合わざるを得ませんでした。東京にいて、このままバイト生活をしていても就職なんかできないことは嫌というほど分かっています。
 ある年のお正月、帰省したおりに久しぶりにフリースクール地球子屋にも顔を出してくれました。今、自分は何がしたいのか分からなくなっていることを誠実に話してくれました。
 そこでキャリア学習の過程をもう一度やってみることにしました。

 するとIさんは、「ゲームを通して他の人にも喜んでもらいたかった」ことに気がつきました。ゲームにこだわりをもっていたけれど、他の人に喜んでもらえることが大切だと気がついたのです。
 家族に
「ゲーム業界で就職することは諦める。帰ってきてこっちで就職する」と勇気を出して言うことができました。そしてその年の5月の連休明けに帰省しました。

 半年ほどはどこにも行くあてがなかったのでフリースクール地球子屋で今来ている子どもたちと一緒に過ごしていました。ご家族はこのまま何もしなくなってニートになるのでは、と心配されていました。
 いろいろ考えていましたが、突然動き出すことになります。保育士になると目標を定めてました。そこでフリースクール地球子屋も協力してボランティアで受け入れてくれる小規模の保育所でお手伝いをさせてもらえるようになりました。
 
 それから、保育士の資格をとるためにもう一度専門学校に通いだしました。東京で貯金したお金があったので自分の力で通いました。
 自分が大好きなゲームの世界はキラキラと輝いていたかもしれません。しかし自分が一生懸命に努力して切り開いていった世界が輝きをもつことをIさんは気づいたのかもしれません。
 目標や意欲をもって専門学校に通い、今ではある保育園で主任格となって活躍しています。

 Iさんが考案したレクリエーションや簡単なゲームは園児にも大変好評だそうです。このようにしてIさんは、しっかりとゲームと人とをつなぎ、人を楽しませるという目標を実現したのです。

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