お父さんが嫌い

「お父さんが嫌い」

現在24歳になる女性Kさんをご紹介します。
若者の自殺、特に、10代の小中高校生や大学生などが命を絶つ悲劇が近年増加傾向にあるのです。子どもや若者は何に追い詰められるのか、どんな支えが必要なのでしょうか。フリースクール地球子屋では、この問題についてずっと考えてきました。

 日本における子どもや若者の自殺率は増加の一途をたどっていることは数字からよく読み取れます。厚生労働省と警察庁が昨年の自殺に関する統計によると、総数は2万196人(前年比671人減)という数は統計を開始してから最も少くなっています。ところが、世代別で見ると10代だけ自殺者が3年連続で増えているのです!
その数は659人(同60人増)と過去20年間において最も多かったのです。死因としても10代では自殺が1位ということで、この問題が本当に重く受け止めなければなりません。

 もう少し詳しくみると子どもや学生が516人、有職・無職の社会人(若者?!)が143人でした。
学校以外の場で、10代の子ども・若者が孤立していることを示しています。
 ではどうして自殺をしなくてはならなかったのでしょうか。
 それは、友達との関係悪化や成績不振といった「学校に関する問題」、病気、障がいなど自分に関わる「健康問題」、DVや離婚による経済的困窮、親子関係などの「家庭の問題」で、これらが複雑に絡み合って、一人ひとりに重くのしかかっているのです。なぜ自殺にまで追い込まれていくのか、健康に、幸せに育った人にはなかなか理解することはできません。

 Kさんもフリースクール地球子屋に関わるまでにかなり精神的に追い込まれることが多かった子どもです。
Kさんがまだ小学校に行く前に両親は離婚してしまいました。お母さんがいなくなり、Kさんはお父さんと祖母に育てられました。お父さんは、居酒屋を経営しており、昼間はずっと寝ているような生活です。Kさんとはずっとすれ違いな生活で、週に3回父親の経営するお店でご飯を食べる時だけが父親と話す時間です。とはいってもお店も忙しくて話す時間は5分もありません。

 お父さんは、早く軌道にのせて2店舗目を出すことだけを目標に頑張りつづけました。それで学費を稼ぐことが一番大切だと思っていたのです。Kさんは、学校のことや部活動のことをお父さんに聞いてほしかったのですが忙しくて全く相手をする余裕はありませんでした。
 その寂しさからか、いつの頃からか深夜に抜け出して遊びにいくようになって、不良グループと一緒に過ごす時間が増えていきました。当然、夜遊びばかりしているKさんをお父さんは叱りつけ、ビンタしました。
 ついに学校に行くこともしなくなり、部屋に一人でこもるかコッソリと夜中に出ていき不良グループと遊ぶことを繰り返していました。

 そんな中で、学校に行かないのなら別のところへ行きなさいと無理やり連れてこられたのがフリースクール地球子屋でした。Kさんは、「こんなところ来たくない」と最初は抵抗していました。
 まずはKさんとゆっくり話を聴くことにしました。
「アイツ(父親)は死ねばいい。自分も死にたい」と吐き捨てるように言うので、どういうお父さんなのかを聞きました。
 話を聞けば、Kさんがそこまで憎しみをもつに至る原因があったのです。
 別室に待たせていたお父さんには帰ってもらい、とりあえずこのフリースクール地球子屋はあなたの味方だということをわかってもらうことで気持ちも落ち着いてきました。

 それから、2週間に一度くらいのペースでフリースクール地球子屋に顔を出してくれるようになり、少しずつ自分の気持ちを話してくれるようになっていきました。
 3ヶ月くらいたつとやっと自分の居場所のように感じられるようになり、スタッフにも他の子どもたちにも話しかけられる人懐っこい本来の性格が出てきたのです。

 Kさんは「私はアイツ(父親)から、早く離れたい」と繰り返し言うのは、どうやら父親に反対されバカにされたことだったようです。
 そのころKさんは芸能界に憧れをもち、歌や演技をすることが好きでした。有名なダンスグループの流行の歌のフレーズを歌ったり、踊ったりよく真似をしていました。好きな芸能人の話をしたりと話題は尽きません。しかし家庭では誰もKさんの話を理解してくれる人はいなかったのです。
 さらに高校生になったらバイトをしてオーディションを受けるということに父親も祖母も反対していました。

 フリースクール地球子屋では、夢を単なる夢に終わらせずにどうしたら実現できるか、といったキャリア教育に力を入れています。Kさんに対しても、ただ憧れるだけではなれないこと、どうしたら実現するか一緒に考えていきました。このように具体的に自分の夢について一緒に考えてくれる人が身近にできて安心したのか、夜遊びや不良グループと一緒にいることは自然に少なくなっていきました。自分にとってそれは必要ないものだし、それを続けても夢には近づくことができないとわかったからです。

 歌やダンスは好きでしたが、その能力よりは演技力を磨く方が自分に合っていると思い、フリースクール地球子屋のプロジェクトの一貫である劇団に入会させてもらえるようになりました。入会の条件は、中学校の時は中学校の学習を理解すること、高校生になったらきちんと課題をこなすことでした。フリースクール地球子屋で学習面はサポートをしながら、残りの時間は演劇に打ち込むことにしました。
 8ヶ月ほど役者としてトレーニングを積んで初舞台を迎えて以来、様々な役を与えてもらえるようになりました。

 もっとよい役者になりたい、もっと良い演技をしたいと気持ちがどんどん強くなっていき、進学先も関東の大学に決めることができました。
 東京の劇団に所属して、今でもずっと役者を続けています。
 あんなに嫌っていた父親ですが、学費を出してくれたこと、役者の道に進むことを最終的に許してくれたことから親子の関係を修復することができました。

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